2022年5月1日主日礼拝
「あなたは何を信頼していますか」石丸 泰信 先生
マタイによる福音書 16章13～20節
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どう生きるか。「自分の好きなことがやれれば良い」と多くの人は考えます。他方、「自分の好きなことがわからない」という人も大勢います。自分の好きなことなんて無くても良いでしょう。この世界が必要としている生き方は沢山あります。けれども、そこで大切なのは何になるか、どこに所属するかよりも、どんな人間になるかになるかが大切です。
どんな人間になるか。その第一歩は今、自分がどんな人間であるかを問い始めることだと思います。主イエスは「それでは、あなたがたが、わたしを何者だと言うのか」と言われました。これはつまり、あなたはわたしを見てどう思う人間か、ということです。自分が問われる問いです。ペトロだけが答えました。「あなたはメシア、生ける神の子です」。
マタイ福音書は、この場面を一つの区切りとして見ています。主イエスの教え（５-７章）と業（８-１０章）を見聞きした人々は、それぞれの反応をしていました。肯定的な態度で喜ぶ者、否定的に見て殺意を抱く者、まだわからないと言って中立を保つ者。それが１３章までに描かれます。そして主イエスの問いに対して「あなたはメシア」（救い主）、つまり、わたしにはあなたが必要です、という信仰告白の言葉が現れた時から、弟子たちだけに語る旅、エルサレムへ向かう歩みが始まるのです。
自分は何を必要として、何を信頼して生きているのか。お金や損得が基準という人もあると思います。けれども、主イエスは、損したって良い。本当に大切と思うことをしなさいと弟子たちに言ってきました。愛するとは損することです。愛するには自分の身を削らないといけない。自分の時間、お金、体力。せっかく自分のものなのにそれを相手に渡してしまうことです。主は、その痛みをこれから受けようとしています。その姿を見て、あなたは何と言うか。もちろん何かを信頼して生きるとは、あれかこれかではありません。お金ではなく愛とか、得してはいけないとかであれば、皆、人間を辞めなければいけません。実際は、あれもこれもです。けれども、自分が本当に信頼していることが船の碇のように、自分の立っている場所を守っている。だから、愛することを忘れないでいられるのです。
そして「救い主が必要」と答えるのであれば、自分の悲惨さも忘れていないということです。教会は悩みのある人が行くところという言われ方をされることがありますが間違いだと思っています。聖書はわたしたちの悩みを大きな事と考えていますが、それ以上に、わたしたちが人を悩ませることをずっと大きな事と考えています。人を悩ませたり困らせたりしながら、自分には悩みや困ったことがないといって平然としていること、それが罪。どこまでも自己中心的です。その罪と戦われたのが主イエスです。どうやってその罪から解放するか。その結果が十字架の上で血を流すということでした。その方を「救い主」と呼ぶ者たちに主は幾つかのことを話されました。
信仰告白の言葉は、本人が知恵を尽くして考え出したことではなく、神があなたに示されなければ口に出来ないものということ。その信仰告白の言葉の上に「わたしの教会」を建てるということ。天の国の鍵を授け、天の門が閉じるか開くかはあなたがた次第。主が十字架の死を通して天の門が開いたように、そのような業が小さくてもわたしたちの生活の中でも行われることを期待していること。そして「御自分がメシアであることをだれにも話さないように」と命じられました。どうしてか。ご自分の苦しみ、死、復活。そのすべてを見なければ、本当のことは分からないからです。あなたがメシアと呼ぶ、そのイエスがどのように生きるのか。しっかり見てから、それを世界に伝えてほしいと主は願ったのです。痛みの後に何が起こるか。主イエスは、その傷と共に復活しました。新しい命に生き始めました。
自分はどんな人間か。それはつまり、どんな使命を持っているかと言い換えられます。使命とは、命の使い方です。どんな命の使い方をしようとしていのか。それを自覚することは自分の人生を導く羅針盤を手に入れたようなものです。反対に、使命を問わずに済ますことは方位磁石なしに沖へこぎ出すようなもの。自分の人生は周りの波、環境次第になってしまいます。わたしの使命は何か。ある人は「あなたの傷の中にあなたの使命がある」と言います。失敗して傷つきます。寂しくて傷つく。赦せない自分に傷つきます。そして、その傷を隠そうとしますし、無ければ良いのにと思います。けれども、主は、その傷を見てほしいと言われるのです。その傷の中にあなたの使命が隠れているからです。
あなたは誰ですか。何を信頼して生きていますか。すぐには答えられない問いです。けれども、あなたの傷を通して新しい命が始まると聖書はいいます。そうであれば、もう少し自分自身をまっすぐに見ることが出来るかも知れませんし、自分が本当はどんな人間になりたいかも、聞こえてくるのではないかと思います。