礼拝説教３月2８日
「空の鳥を見なさい、野の花を見なさい」
マタイによる福音書６章２５ー３４節
石丸 泰信 牧師
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主は「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む」と言います。擬人化されたような言い方です。「あなた自ら」ではなく、「明日自ら」が思い悩んでくれると言うのです。この擬人化された「明日」は「父なる神」と言い換えても良いかも知れません。明日のことは本当はわたしたちには手が届きません。いくら健康でいようと、１００年分の財産を持っていようと明日の命のことは分かりません。だから心配になります。しかし、その明日のことは神自らが思い悩む（＝気に掛けてくださる）。だから、主は「思い悩むな」と言われるのです。 今日、向河原教会の牧師として最後の説教奉仕になりますが、この９年間、思い悩むことの少ない人生であったと思います。「石丸先生は、こうしたいとか、幸せになりたいとかはないのですか」と聞かれたことがあります。「ないですね」と答えました。どうしてかと言うと、ずっと幸せだからです。幸せでない瞬間が一瞬もない。人は言います。空き巣や台風、洪水。どうしてあなたの周りにはいつも大変なことばかりが起こるのか。けれども、それを人ごとのように聞いてしまう程、満たされた９年間でした。それは、重荷を一人で背負うことがなかったからだと思います。いつもキリスト者の交わり、教会の中に置いてもらっていました。もちろん、時に思い悩むこともありましたが、それは直接に自分の手の届かない事ばかり。一人で背負ったとしてもどうにもならないことであったと思います。
主は「思い悩むな」と言われた際、「空の鳥をよく見なさい。･･･野の花がどのように育つのか、注意して見なさい」とも言われました。「よく」、「注意して」です。これは一度立ち止まらないといけない命令です。ある人は、これを「休め」という命じだと言い、次のように言います。人はどこか重大な問題に関しても自分で解決できると思っている程に自分を大きなものとして見てしまっている。自分が背負わなければ誰が一体背負うのかと気負って、自分が救い主か何かだと思ってしまっている、と。つまり過信。自分の手が届くような気がして思い悩むのは過信だと言っている訳です。
「空の鳥」や「野の花」を見たときに思い出して欲しいことがあるのだと思います。空の鳥や野の花は美しいですが、その日その日の苦労を背負うあなたの姿は、もっと美しいということ。天の父なる神にとって空の鳥も野の花も大切に映っていますが、あなたには、それ以上の愛と配慮が集中していること。神が「あなたがたの天の父」であるならば、わたしたちは、その神の「子」です。父をもっと信頼して欲しいのです。
父への信頼というと思い出すことがあります。神学生の頃、バイクが盗まれたことがあります。夜のアルバイトが終わって帰ろうとしたら、いつもある場所にわたしのバイクはありませんでした。警察に届けるなどをしていると、すっかり遅くなり、電車がなくなり、タクシーで帰るお金もありませんでした。家に電話すると父が車で迎えに来てくれました。それがすごく嫌でした。土曜日の夜であったからです。父は牧師で翌日の礼拝の準備があるはずです。申し訳ない気持ちで、迷惑を掛けたことを告げると、構わないよと言われました。それまでは父は自分の父でありながら、愛されているのか、それとも礼拝が大切で煩わしいことは嫌だと思っているのか･･･、自分がどう思われているのか、分からないところがあったのですが、何と比べるというわけではなく、ああ、自分は大切にされていると感じました。その一言があったとき、ある意味、父が自分の父になった瞬間でした。漠然とした「父」から「わたしの父」になった。そう感じると、帰れなくなった「今」だけ心配して迎えに来てくれたというのではなく、「いつも」父の心配の中に自分が置かれていたのだと分かるようになりました。自分の預かり知らないところで、自分のためにもっと悩んで心配してくれている人がいる。そういう父、そういう存在に囲まれていることが分かると、なんだか、いろいろなことが大丈夫な気がしてきます。
主イエスもそうです。どうして「思い悩むな」という言葉を口にできるのか。主イエスこそ、わたしたちの為に思い悩んでくださっている方だからです。旧約のイザヤ書５３章には「苦難の僕」という歌があります。主の復活の後、では、あの主の死は何であったのか。人々は、この歌に行き着きました。「この人は･･･人々に見捨てられ 多くの痛みを負い、病を知っている。･･･彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに わたしたちは思っていた 神の手にかかり、打たれたから 彼は苦しんでいるのだ、と。彼が刺し貫かれたのは･･･わたしたちの咎のためであった。･･･彼の受けた傷によって、わたしたちはいやされた」。この主イエスという神こそ、食べ物や身体のことで思い悩むわたしたちよりも悩み、わたしたちの永遠の命のために深く悩み、自らの命を投げ出された方です。その方に囲まれているから、あなたは大丈夫と主は言われるわけです。「空の鳥」や「野の花」を見る度に、その美しさを彩っている方のことを思い出したいと思います。